
近年、自動車の電装化が急速に進む中で、車載システムに搭載されるストレージデバイスには、より高い信頼性と性能が求められています。
本稿では、車載用ソリッドステートドライブ(SSD)のデバイス規格であるJEDEC JESD312規格に焦点を当て、その重要な要件と仕様について詳しく解説します。
車載SSD規格化の背景
JEDEC JESD312規格は、主に車載アプリケーションを対象としたSSDのインターフェースパラメータ、信号プロトコル、環境要件、パッケージング、その他の機能の仕様を定義するために策定されました。
この規格は、車載SSDのデバイス規格として、パッケージ、電気仕様、プロトコル仕様、容量、セキュリティ、システム仕様、耐久性、環境(温度、湿度、衝撃、振動)など、多岐にわたる項目を網羅しています。
規格の概要
JESD312規格は、共通機能の概要として、以下の仕様を示しています。
- 28 x 28 mm アプリケーション・ランディング・パターン、ソケットレス・ソリューション
- BGAパッケージ・オプション:16 x 20 mm, 20 x 24 mm, 22 x 28 mm, 28 x 28 mm
- PCIe 4.0 x4 電気インターフェィス、ピーク転送速度 8GB/秒
- NVMe コマンド・プロトコル対応
- シングルルートI/O仮想化(SR-IOV)
- デバイス認証とセキュリティ
- ファームウェア回復力
- 動作温度範囲 A2T(-40℃~+105℃)
- オプションのシステム・ストレージ・エリア
パッケージ仕様
JESD312規格では、推奨アプリケーション・ランディング・パターンとしてPCI-SIG 2828 BGAパッケージの使用が推奨されています。
パッドとボールのピッチは0.80 x 0.80 mmです。車載用SSDデバイスは、2828 ランディング・パターン全体またはその適切なサブセットと互換性のある以下のパッケージを使用する必要があります。
- 1620 (16 x 20 mm)
- 2024 (20 x 24 mm)
- 2228 (22 x 28 mm)
- 2828 (28 x 28 mm)
パッケージ厚については、1.20 mm、1.35 mm、1.50 mm、1.75 mm、2.00 mmの5種類が規定されています。
端子定義
JESD312規格では、インターフェースの信号名、I/O、説明、電圧などが詳細に定義されています。
インターフェース | 信号名 | I/O | 説明 | 電圧 |
---|---|---|---|---|
電源・グランド | PWR_ID0~4, PWR_1~3, GND | I | 電源、グランド | – |
PCIe信号 | PERp0~3, PERn0~3, REFCLKp/n, PERST#, CLKREQ#, PEWAKE# | I、I/O | PCIeデータ、クロック、制御 | 1.8V (一部) |
SATA信号 | SATA-A+/-, SATA-B+/-, DEVSLP, DAS/DSS | I、I/O | SATAデータ、制御 (車載SSDでは要求されない) | – |
SSD固有信号 | SUSCLK, PEDET, RFU, DNU, LED_1#, XTAL_IN/OUT, CAL_P, RZQ_1/2 | I、O | SSD固有のクロック、検出、制御 | 3.3V (一部) |
JTAG信号 | JTAG_TRST#, TCK, TMS, TDI, TDO | I、O | JTAGデバッグ | 3.3V |
SMBus信号 | SMB_CLK, SMB_DATA, ALERT# | I/O、O | システム管理バス | 1.8V, 3.6V耐性 |
テスト信号 | DIAG0, DIAG1 | I/O | テスト用 | ベンダー指定 |
電気仕様
JEDEC要件として、車載用SSDはPCI Express Base Specification 4.0, Version 1.0をサポートする必要があります。
車載SSD PCIeデータ・バスは4レーンをサポートし、各レーンのピーク帯域幅は16Gb/s、合計ピーク帯域幅は64Gb/sまたは8GB/sとなります。
コマンド・プロトコル仕様
車載用SSDは、NVM Express (NVMe) プロトコル Revision 1.4c および NVM Express Management Interface Revision 1.1d をサポートする必要があります。
また、PCI Express Base Specification 4.0, セクション 9 に準拠したシングルルートI/O仮想化(SR-IOV)をオプションでサポートし、最大256の仮想ファンクション(VF)がサポートされます。
ストレージ容量要件
車載用SSDは、オプションとして、バルク・ストレージ領域に加えて、別個のシステム・ストレージ領域を提供することができます。
ストレージがシステム・ストレージ領域とバルク・ストレージ領域に分割されている場合、提供される総容量は2つの領域のストレージの合計となります。
システム・ストレージ領域はオプションですが、サポートされる場合は、記載された最小容量を提供する必要があります。 車載用SSDの実装によっては、オプションのシステム領域がバルク領域に追加される場合や、ストレージデバイスのセグメントになる場合があります. 車載用SSDドライブの総容量は、両方の領域の合計を表すものとします。
システム・ストレージ領域 | バルク・ストレージ領域 | |
ストレージの役割 | ブートストラップ・コード、 オペレーティング・システム、 重要なアプリケーション、 車両の機能に関連するデータ | 重要度の低いデータ |
デバイス容量クラス | 最小システム・ストレージ領域容量 | バルク・ストレージ領域容量 |
---|---|---|
128 GB | 0 | 128 GB |
256 GB | 0 | 256 GB |
512 GB | 32GB | 512 GB |
1 TB | 32 GB | 1 TB |
2 TB | 64 GB | 2 TB |
4 TB | 64 GB | 4 TB |
セキュリティ要件
JESD312規格では、インターフェースの信号名、I/O、説明、電圧などが詳細に定義されています。
車載用SSDは、以下のセキュリティ要件をサポートする必要があります。
- PCI-SIG Component Measurement and Authentication (CMA) プロトコル バージョン 1.0 以降
- DMTF組織によるセキュリティプロトコルおよびデータモデル(SPDM)、DSP0274、2021-05-24、バージョン 1.1.1 またはそれ以降
- 署名アルゴリズム:TPM_ALG_ECDSA_ECC_NIST_P384
- ハッシュ・アルゴリズム:TPM_ALG_SHA_384
システム要件(電源)
車載用SSDのシステム要件(電源)には、以下の項目が含まれます。
- システム・マネージメント・バス
- パワーONシーケンス
- パワーOFFシーケンス
- パワー・ランプのタイミングおよび電圧調整
■パワーONシーケンス
ホストは、電源投入時のPWR_1電源、PWR_2電源、PWR_3電源の電圧順序について、以下の推奨事項を適用する必要があります。
- PWR_2電源の電圧またはPWR_3電源の電圧が300mVに達した後、PWR_2電源の電圧はPWR_3電源の電圧より少なくとも200mV大きいままでなければならない。
- PWR_1電源の電圧は、PWR_3電源の電圧やPWR_2電源の電圧とタイミング的な関係はない。
■パワーOFFシーケンス
電源オフ時のPWR_1電源、PWR_2電源、PWR_3電源の電圧の電圧シーケンスについて、以下の推奨事項を適用する必要があります。
- PWR_3電源の電圧とPWR_2電源の電圧が300mVに達する前に、PWR_2電源の電圧はPWR_3電源の電圧より少なくとも200mV大きいままであること。
- 全ての電源の電圧は、パワーONシーケンスが再開される前に、少なくとも1msの間、100mV以下でなければならない。
システム要件(ファームウェア)
車載用SSDコントローラとデバイスは、NIST Platform Firmware Resiliency Guidelines 800-193 をサポートする必要があります。
ルート・オブ・トラスト(Root of Trust)とチェーン・オブ・トラスト(Chain of Trust)のガイドラインは、「セキュリティ要件」で定義されるDMTFセキュリティ・プロトコルに従う必要があります。
エンデュランス要件
車載用SSDは、「パーソナルオート」と「プロフェッショナルオート」の2つの主要な市場セグメントをサポートします。
各市場セグメントにおける稼働年数、年間使用日数、1日平均使用時間、公称温度などの耐久性要件が定義されています。
特 徴 | パーソナルオート | プロフェッショナルオート |
---|---|---|
稼働年数 | 15年 | 8年 |
年間使用日数 | 344日 | 365日 |
1日平均使用時間 | 3時間 | 12時間 |
公称温度、電源オン、アクティブ使用時 | 55℃ | 55℃ |
公称温度、電源オフ | 30℃ | 30℃ |
特 徴 | パーソナルオート | プロフェッショナルオート | 単位 |
---|---|---|---|
読取り動作、 温度範囲 -40℃~+105℃ | 無制限 | 無制限 | |
TBW、バルクストレージ領域、 温度範囲 -40℃~+95℃ | 200 × | 200 × | 領域容量 |
TBW、バルクストレージ領域、 温度範囲 +95℃~+105℃ | 非対応 | 非対応 | 領域容量 |
TBW、システムストレージ領域、 温度範囲 -40℃~+95℃ | 500 × | 500 × | 領域容量 |
TBW、システムストレージ領域、 温度範囲 +95℃~+105℃ | 200 × | 200 × | 領域容量 |
環境への考慮
車載用SSDは、-40℃~+105℃の車載用温度グレード2(A2T)で動作する必要があります。
また、高温での動作における性能スロットルに関する要件も規定されています。
ケース温度範囲 | 最低性能特性 |
---|---|
-40℃≦ Tc ≦+95℃ | 上記「エンデュランス要件」 |
+95℃< Tc ≦+105℃ | 上記「エンデュランス要件」 |
まとめ
本稿では、車載用SSDのデバイス規格であるJEDEC JESD312規格の概要と主要な要件について解説しました。JESD312規格は、車載アプリケーションにおけるSSDの高性能化、高信頼性化、および標準化に大きく貢献するものです。
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参考文献(参考リンク)
- JEDEC:https://www.jedec.org/
更新履歴
2025/5/28 新規作成